カドミウム。日本の経済成長を影で支えた功労者であり、カドミウム無くしては今の日本の経済発展はあり得なかったといってもいいほど産業界にとって極めて重要な物質です。
しかし、残念なことに、このカドミウム、人にとっては非常に有害に働いてしまいます。以前お話した、岐阜県を流れる神通川流域で発生したイタイイタイ病がその典型的な事例ですね。
では、土壌汚染調査でカドミウムによる汚染が発覚した場合、その後どのように対策をすれば良いのか?
カドミウムで汚染された土壌の対策方法は、基本的に2つに絞られます。その2つとは、汚染土壌の掘削除去、不溶化もしくは囲い込みです。
以後、様々な点からこの毒にも薬にもなるカドミウムについてお話します。
カドミウムって何?
偉大なるカドミウムの功績
じゃあ、カドミウムって一体なんなの?身体にとっては毒?それとも薬?」
まずカドミウムって一体なんなのか?そこからお話いたします。
カドミウムを基本的なところから説明すると、周期表で言うところの48番目の元素であり、亜鉛や水銀と似た性質を持つため、非常に柔らかい金属です。
Cdという元素記号で表されるカドミウム、よく聞く名前ですが、実はありふれた物質ではありません。産出地がロシアとアメリカの一部のみの、むしろ珍しい部類に入る鉱物です。日本の山岳地帯であっても、産出されることはほとんどありません。
なぜそんな希少な元素であるカドミウムが、工業製品として当たり前のように使われるようになったのか。
工業製品で使用される材料として、非常に汎用性が高いということがわかったためなのです。カドミウムがどの工業製品で使用されているか。ざっとこんなところです。
・ウッド合金の成分材料
・顔料(カドミウムイエロー・レッド・オレンジ等)
・ニッカド(ニッケル・カドミウム)電池
・原子炉の制御用材料
・メッキ材料
いずれも日本の産業を根底から支えてきた工業製品であり、カドミウムなしではこれらの工業製品が世に出ることはありませんでした。
カドミウムが私たちに与えたものは極めて大きく、今の日本の経済発展はカドミウムの存在があってこそだと言えるでしょう。決して大げさな話ではありません。
カドミウムの大罪
私たちの経済発展を根底から支えてきたカドミウム、私たちから見ると大恩人ですが、残念ながら、その裏では大罪を犯していたのです。
「イタイイタイ病」
富山県内の神通川下流域で発生したこの名の病気、あなたもきっとご存知のはず。岐阜県内の三井金属鉱業神岡事業所での業務で発生するカドミウムを含んだ廃水が、富山県へと流れる神通川に流れたことで発生した病気であり、日本はもとより世界中にカドミウムが毒物であると認識された大事件でした。
川へと流れたカドミウムはそのまま水田へと流れ、カドミウムを含有した新米が誕生、その米を食した方々がイタイイタイ病を発症してしまったのです。
産業で極めて大きな功績を残したカドミウムが、人体にとっては有害なものだった!
イタイイタイ病の原因がカドミウムだと判明すると、瞬く間にカドミウムは悪者扱い。また、その後の研究で発ガン性すら疑われるほどの大罪が判明し、カドミウムの評価は180度ひっくり返りました。
その後産業界は、技術レベルを下げないままいかにしてカドミウムの代替品を生み出すかに心血を注ぎ、その結果カドミウムを含む工業製品は極端に減少することとなったのです。
工業製品の材料としては極めて優秀だが、人体には有害。そんな評価に落ち着いたカドミウム。以後、カドミウムは一部の研究所で使用されるだけの物質となったのです。
神通川
農地にカドミウムが入っている場合はどうすればいいの?
かつては工業製品の材料として使用されていたカドミウム、イタイイタイ病のような痛ましい公害の原因物質となってしまいましたが、その有害性が広く世に広まった昨今、カドミウムが人の体内の取り込まれる可能性は極めて低いと考えられます。
仮に人の体内に取り込まれる可能性があるとすれば・・・それは農地にカドミウムが含有していた場合と考えられるでしょう。かつてイタイイタイ病がカドミウムに汚染された米を食べることで発症したように。
農地を介してのカドミウム汚染を未然に防止するために、行政指導という形で農地の土壌汚染調査、カドミウム汚染の除去等の措置が進められてきました。現行の土壌汚染対策法の前身とも言えますね。
このようにカドミウムの土壌に対する汚染防止対策や除去対策については、十分な時間が取られてきました。しかし、現在に至るまでも、土壌中からカドミウムのみを除去する方法は開発されていません。ではどうするか?
現在、土壌汚染調査の結果、土壌中のカドミウム汚染が発覚した場合に取られる措置は、掘削除去と不溶化のみです。つまり、カドミウム汚染が発覚した範囲の土壌を丸ごと掘削除去して廃棄してしまうか、地下水等にカドミウムが溶出しないようにコンクリート等で固めてしまうかだけなのです。
なぜか?
土壌汚染の原因となる物質は現在26種類規定されています。その中には揮発性の物質もあり、それらは加熱するだけで土壌中から除去することができます。除去が完了した後の土壌は無害な土壌として認定されるわけですね。
ところがカドミウムは元素そのものであるため、どれだけ加熱しようと冷却しようと薬品で反応させようと爆発させようと、カドミウム自体が変化することはありません。
しかも、土壌中でカドミウム単体として存在するとは限りません。カドミウム化合物として存在しているとすれば、土壌中のカドミウムのみの除去は実質不可能です。
今も昔も工場跡地も農地も、カドミウムを除去するには掘削除去か不溶化しかない!これが現実なのです。
仮に農地でカドミウム汚染が発覚した場合、行政への相談は絶対にすべきですが、基本的には農地の土を掘削除去して無害な土と入れ替えるしかないと考えられます。
カドミウム汚染されてしまったら…
人体に与える影響は?
さて、カドミウムについての毒性についてお話いたしましょう。
カドミウムの人の身体への毒性は、腎臓への障害が最も深刻だということができます。
腎臓という臓器の役割は以下の通りです。
・体内の老廃物や余分な水分を尿として排出
・骨を強くするために必要なビタミンD活性化
・赤血球を作り出す物質の生成
尿を作り出す役割は一般的にも知られていますので、もしかしたらあなたもご存知かもしれません。ただ、腎臓が骨の強化に関わっているということは、あまり知られていないのではないでしょうか。
現に先ほどお話したイタイイタイ病の症状は、骨が極端に脆くなってしまうことです。つまり、ちょっとしたことでも簡単に骨折してしまうため、イタイイタイ病の患者は猛烈な痛みに苦しめられることになるのです。これが「イタイイタイ病」の命名の由来と言われています。
また、腎臓への障害により赤血球を作り出す物質が生成されなくなってしまうため、貧血にもなってしまいます。言うまでもなく、赤血球は血液を構成する物質として極めて重要です。
また、カドミウムの摂取による発ガン性の疑いも指摘されています。発ガン性については意見が別れるところですが、いかにカドミウムが身体にとって毒かということがよくわかります。
腰痛の痛みどころじゃないんだよ!
カドミウムはどのような方法で除去するのですか?
それほど人にとって毒性を発揮するカドミウム。今日の日本の経済発展を支えてきた功労者には違いありません。しかし、代替品の研究も進んでいる昨今、カドミウムをいかに人から遠ざけるかを考えなくてはなりません。
ヨーロッパでは、カドミウムを始めとした有害な重金属を含んだ電気製品の一切の輸出が禁止されました。ヨーロッパ各国に電気製品を輸出するには、重金属を含んでいないことを証明する計量証明書を添付する必要があります。
日本でもカドミウムのような有害な重金属の使用については厳重に管理されていますが、古い工場などではまだまだ多くのカドミウムが眠っていると言われています。もちろん、それらのカドミウムは土壌汚染の原因物質となり得るのです。
仮に工場跡地の土壌でカドミウムによる汚染が発覚した場合、カドミウムだけを選択的に取り除く手段は存在しません。
土壌汚染対策法で定められた土壌汚染調査によりカドミウム汚染の範囲を特定し、その範囲の土壌を根こそぎ掘削除去、あるいは鋼矢板を地中に打ち込んでカドミウム汚染の範囲を囲い込み、地下水によるカドミウムの溶出、拡散を防ぐという方法に限定されてしまうのです。
現在、植物により、土壌中のカドミウムを選択的に除去する研究開発が行われており、これが実用化すれば土壌中カドミウム汚染問題は、大きく前進すると期待されています。
しかし、その実用化まではまだまだ時間を要します。効果の程も定かではありません。
土壌中カドミウム汚染問題は、確実に解決への道を辿っています。それは間違いありません。しかし、その道は一体どこまで続くのか・・・私たちは、日本経済を支え続けた日本企業の世界に誇る技術に期待を寄せるしかありません。
まとめ
カドミウムは日本の経済発展を根底で支えた功労者ですが、同時に人体に悪影響を及ぼす毒物でもあります。
功労者から毒物へと大きく変わる変換点が、まさにイタイイタイ病の発生でした。しかし、それに気づいた時にはもう時すでに遅し。多くの死傷者や汚染土壌を生み出す結果となってしまったのです。
カドミウムの人体への影響は、カドミウムを遠ざけることで被害者は徐々に減少し、やがてイタイイタイ病の新たな患者数はゼロになりました。
しかし、カドミウムによる土壌汚染は、私たちの代に至るまで残り続け、さらに後の世代へも引き継がなくてはならない事態に陥っているのです。
根こそぎ取り除くか固めてしまうことでしか、土壌中カドミウムの拡散を防ぐことはできません。
しかし、その全ては私たちが招いたもの。産業技術の発展の裏で起こった土壌中のカドミウム汚染。その解決は産業技術の発展でしかできないのかもしれません。