人の怪我や病気を治すには医師の免許が必要、薬を処方するには薬剤師の資格が必要・・・
他にも専門分野にはそれぞれの専門職を習得したプロが存在し、プロであることを証明するための資格が存在します。医者や薬剤師、弁護士、弁理士、測量士、潜水士・・・
そんな専門分野の業務は、国が設定したそれぞれの国家資格をパスしなければ、その仕事をすることはできません。
そして土壌汚染の分野においても国家資格が設定されており、その名を「土壌汚染調査技術管理者」と言います。個人で土壌汚染関連の仕事をするのであれば、ある程度のことはその有資格者であれば可能です。
しかし、その有資格者だけでできる範囲は限られており、本格的に土壌汚染調査を業務として行なうためには、事業所としても資格が必要となってくるのです。
その資格こそが「指定調査機関」の登録です。
今回はこの「指定調査機関」についてお話いたします。
指定調査機関はどのように決められるのですか?
「指定調査機関」とは、土壌汚染調査ができる我が国唯一の機関であり、その指定条件は決して簡単ではありません。事業所としての登録になるので、事業所としての土壌汚染調査実施できる技術力はもちろんのこと、事業所としての経理状況なども審査の項目に入ります。
その条件は以下の通りです。
①債務超過となっていないこと
②土壌汚染調査実施のために必要な能力を確保していること
③土壌汚染調査実施のための必要な人員を確保していること
④土壌汚染対策法にかかる調査などが公正に実施できる構成員であること
以下、各条件についてお話します。
①債務超過となっていないこと
この条件については、当然といえば当然です。債務超過に陥っている会社が適正な土壌汚染調査関連業務が行えるはずありませんから。
土壌汚染調査に限らず、どんな業務においても資金は必ず必要であり、資金の確保が大前提になってきます。その資金が準備できない状態では土壌汚染調査はおろか、事業所の運営すら危ぶまれるでしょう。
②土壌汚染調査実施のために必要な能力を確保していること
この条件は、つまり土壌汚染調査技術管理者が事業所に所属していなければならないということです。人数に制限はありません。1人でも所属していれば、②は満たされることになります。
注意すべきは、土壌汚染調査技術管理者の退職でしょう。経営者が資格所有者であれば問題ありませんが、資格所有者が退職した場合、早急な人員確保が必要になってきます。
仮に資格所有者を確保できなかった場合、②の条件が満たされず、指定調査機関としては廃業ということになります。
③土壌汚染調査実施のための必要な人員を確保していること
土壌汚染にかかる業務は、基本的に現場での業務であり、肉体労働が伴い、また安全第一を常に念頭に置いとかなくてはならない危険作業も伴います。
したがって、事業として5名程度の人員は必ず必要であり、それぞれ経理担当や現場担当、そしてそれらを取り仕切る立場の人、それぞれの役割を設定しなくてはなりません。
もちろん、実際の現場で指定調査機関1社だけで全てを完了させることは稀です。ほとんどの場合、事業者外の外注業者に依頼し、現場作業の一部を担当してもらうことになります。
ただし、外注業者を事業所のメンバーとして設定することはできません。建前上は事業者内だけで業務を完了するということにしなくてはならないのです。
④土壌汚染対策法にかかる調査などが公正に実施できる構成員であること
土壌汚染調査自体は指定調査機関で実施しますが、調査報告書は最終的に地方自治体へと提出されます。そこで、結構厳しい審査を経て調査報告書が受理されることになるのです。
つまり、事業所に地方自治体とつながりをもつ人が所属するとその審査の公平性が保たれなくなる危険性が考えられるということになります。これは1つの事業所だけでなく、その子会社なども対象となることがあります。
ただし指定調査機関の登録審査で、事業所の構成員各自について厳密にその経歴を調査されるわけではありません。厳しく問われることはないでしょう。
事業所は、上記各要件を満たした上で指定の書類を提出しなくてはなりません。どんな書類か?以下に記します。
①指定申請書
②添付書類
書類の種類で言えば、実はこの2種類だけです。しかし、②は多くの書類で成り立っており、それらを揃えるのが一苦労。また、登録審査で重要になってくるのもこの添付書類です。添付書類の中身は以下の通り。
・定款
・登記事項証明書の原本
・貸借対照表及び損益計算書
・技術管理者の選任及び事業所ごとの配置状況
・技術管理者の健康保険被保険者証と直近の標準報酬決定通知書
・役員名簿
・土壌汚染対策法第30条各号の規定に該当しない旨の誓約書
・土壌汚染対策法第31条第2号及び第3号の規定の適合を説明した書類
ここまでお話したように、事業所がその要件を満たすことができ、書類を提出して受理されれば、指定調査機関として登録され、土壌汚染調査を業務として実施することができるようになります。
現在、日本全国の指定調査機関の登録事業所数は880事業所、中には様々な事情により登録したものの土壌汚染調査事業を実施していない事業所も存在すると考えられるので、実質700事業所程度でしょう。
手続きの方法は?
指定調査機関に登録されるには、登録要件を満たし書類を提出することで手続きは完了です。では、どこにその書類を提出すれば良いのか?
指定調査機関の登録は環境省で行われるので、環境省に提出することになるのですが、わざわざ東京の霞ヶ関まで書類を持参する必要はありません。
全国各地に環境省の窓口となる地方環境事務所が設置されており、書類はここに提出することができます。提出後、ここに所属の担当者が提出書類を細かくチェックし、不備があれば指摘してくれます。
審査は概ね1ヶ月ほどの期間を要し、無事審査をパスすれば晴れて指定調査機関の仲間入り!というわけです。
指定調査機関になるメリット・ディメリットは?
ここまでお話した通り、指定調査機関とは土壌汚染調査の実施ができる事業所であり、事業所としての業務の幅が広がることは間違いありません。しかし、どんな物事も表裏一体、指定調査機関登録にもやはりメリット、とデメリットがあります。
メリットについて
指定調査機関とは、法に基づく土壌汚染調査ができる専門業者。指定調査機関以外の業者の土壌汚染調査結果は、公のものとして認められません。
つまり、指定調査機関になることのメリットは、法に基づく土壌汚染調査ができること、そしてその結果に基づいた報告書が公のものとして認められることと言って間違いありません。
また、土壌汚染関連の業務を実施することができるというのは非常に大きなメリットでしょう。
かつて土壌汚染というものは、一般にはほとんど知られていませんでした。あまりにも専門性が高い分野であり、また土壌汚染対策法自体まだまだ若い法律であり、制定から20年も経過していません。
土壌汚染というものが世に知れ渡ったのは、きっとあなたの記憶にも新しい豊洲土壌汚染問題。良くも悪くも、この事件がきっかけとなって、土壌汚染、そして土壌汚染対策法が中臭く始めたのです。
事件以降、土地の売買において土壌汚染への意識は、以前と比較すると格段に上がりました。特に、各地方自治体での土壌汚染調査の入札案件数が格段に増加、土壌汚染を担当する部署は非常に多忙です。
今や、建設や土木を事業とする多くの事業所が指定調査機関の登録を済ませており、大手企業だと10名の土壌汚染調査技術管理者を擁しています。もちろん、土壌汚染に関しては万全の体制であると言えるでしょう。
デメリットについて
ここまで指定調査機関についてお話していた内容からすると、もしかしたらあなたはこのように感じるかもしれません。
「デメリットなんてあるの?」
確かに、土壌汚染調査事業を実施するか否かに関わらず、指定調査機関登録の要件があるならば登録しておくに越したことはない、という考えもあるでしょう。しかし、やはり指定調査機関登録のデメリットもあるのです。
それは、土壌汚染調査技術管理者の突然の退職です。
土壌汚染調査業務特に土壌浄化工事は、半年や1年くらいの長期にわたる業務になることがほとんどです。重機やオペレーターの手配や入換用の土壌の購入の手続き、そして役所の手続きを済ませなくてはならないため、業務期間が長期にわたるのは致し方ありません。
ただ、仮にこの長きにわたる業務の間に業務担当の土壌汚染調査技術管理者が退職し、代わりの資格所有者がいない場合、その事業所は窮地に立たされることになるのです。
すぐに代わりの資格所有者が見つかれば問題ありません。しかし、もし見つからない場合、資格所有者の退職と同時にその事業所は、指定調査機関の登録を抹消されることになります。
現在、土壌汚染調査技術管理者の登録者数は全国で約4000人、まだまだ認知されるには至らないマイナーな国家資格です。急遽、求人を出しても資格取得者が見つかる可能性は低いでしょう。
事業所は、急な退職で窮地に立たされることを想定しなくてはならないかもしれません。
もちろん、事業所内に数名の資格取得書を擁する大手ならばそんな心配はないでしょうが。
まとめ
さて、ここまで指定調査機関、そしてその登録についてお話してきました。
豊洲土壌汚染問題を取り上げるまでもなく、土壌汚染は日本国土にとって極めて重要な大問題、普段目に見えない隠れた汚染だからこそ本当に重要だと言えます。
そんな極めて重要な汚染の拡大を事前に防ぐこと、土壌汚染から国民の健康を守ることが求められている指定調査機関、その重要性は医者や弁護士となんら変わりはない!と私は思っています。
しかし、まだまだ土壌汚染対策法自体が未完成な法律であり、その法整備が本当に急務です。今後の大幅な法改正に期待したいところです。