土壌汚染調査の結果で、基準値超過が確認された場合の措置の1つ、それが盛り土です。土壌汚染対策法の目的の1つが、「人への健康被害を防ぐこと」であり、その目的を達成させるための非常に重要な措置の1つであると言われています。
もちろん基準値超過が確認された土壌に盛り土をするだけでは、ただ、汚染を隠しているだけにすぎません。臭いものに蓋をしているだけです。
盛り土と並行して、原位置封じ込めである原位置封じ込めや不溶化、立ち入り禁止などの措置が取られることもあります。
しかし、地質学の要素が全く取り入れられていないこれらの措置に対する批判もあります。豊洲での土壌汚染問題がその批判の大きな理由の1つです。
今回はそれらを踏まえて、現在行われている盛り土という措置について深くお話していきます。
通常、盛り土はどのようなケースで使いますか?
「盛り土」という言葉自体は、土壌汚染業界専門用語でもなんでもありません。土木業界全体で使われる手法です。
例えば、凹みのある地盤に建物を建てる場合、凹みを平らにするために盛り土をして平らにします。住宅地の造成、道路や線路の敷設を目的とした遠く工事で行われる他、河川の堤防などでも盛り土が成されます。
もちろん、ただ土を盛っただけでは弱い地盤となってしまいますので、転圧や地盤改良なども併せて行われます。
その盛り土に使われる土はどこから盛ってくるか。
現在は、盛り土用の土壌の売買を行う業者から購入することがほとんどです。当然、業者は盛り土用の土として販売するにあたり、汚染されていないことを証明する計量証明書を貼付しなければなりません。
しかし、かつてはそういったルールもなく、汚染された土壌が盛り土として使用されていたこともありました。その盛り土周辺が汚染された土壌を含む土地と判断されるケースもあります。
土壌改良に使う場合はどんな時?
土壌改良の昔と今
もともと「土壌改良」とは、農作物の栽培に適した土にすることを指していました。その主な方法が、鍬や鋤で土を耕す、藁や枯葉を燃やしてその灰を土と混ぜて肥えた土にすると言ったものでした。もちろん今でも行われています。
時が流れて現在、農業技術も進化を果たし、「土壌改良」という言葉にはさらなる意味合いが含まれるようになったのです。それは「土壌改良材」の開発によるものです。
土壌改良材の開発により、土壌改良というものが大きく進化を果たしました。農作物の栽培により適した土壌改良材はもちろんのこと、さらに排水性、保水性、団粒化の促進を目的した土壌改良材が開発されたのです。
排水性とは、いわゆる水はけの良い土にする土壌改良です。一般家庭の庭や学校のグラウンドなどで使われます。
逆に保水性は、より水分を保持する土壌改良です。芝生や樹木を育てる土壌に対して行われる土壌改良です。
団粒化とは、土壌中の微生物の活動が活発になるように、土の粒子を団子状にする技術を言います。高分子系の土壌改良材が使用されることもあります。
時代の変化とともに、土が使われる状況も昔と比べると多様化しました。各場所や状況に適した土壌改良がなされ、土壌改良がされた土は、より快適な暮らしに大きく貢献しているのです。
土壌汚染業界の土壌改良
では、汚染された土壌の改良はどのようにして行うのか?
まず、汚染された土壌の定義です。これは、言うまでもありませんが、土壌汚染対策法で規定された特定有害物質による汚染が該当します。
つまり汚染土壌の改良というのは、土壌中の特定有害物質を除去、もしくは不溶化することを言います。
当然特定有害物質ごとにその特性は異なるので、自ずと改良方法も変わります。以下、特定有害物質ごとの改良方法についてお話いたします。
まずは第1種特定有害物質です。改良方法としては最も分かりやすくシンプルと言ってもいいでしょう。なぜなら第1種特定有害物質は、揮発性であるためです。つまり、熱を与えれば容易に揮発してしまうわけです。
では、どうやって熱を与えるか。デカいフライパンに汚染土壌を乗せて加熱すれば確実に揮発しますが、現実的ではありません。
最もよく行われている方法が、石灰を汚染土壌に混ぜて、土壌中の水分と反応させる方法です。アルカリ性である石灰と水分との反応熱で70–80度まで昇温させることができるため、土壌中の第1種特定有害物質は90%以上が揮発します。揮発した第1種特定有害物質を活性炭などに吸着させてしまえば土壌改良の完成、というわけです。
この方法は、安価でシンプルというメリットがありますが、粉塵が舞いやすい、そして改良後の土壌がアルカリ性に偏るという欠点もあります。
また、汚染が確認された土壌中に微生物を含ませて、第1種特定有害物質を分解させるという技術もありますが、2〜3年もの時間を要する上に温度管理が欠かせないということもあり、現状ではあまり利用されていません。
第2種特定有害物質の土壌改良も行われています。
従来は、土壌中の第2種特定有害物質による汚染が確認された場合の対策は、掘削除去がほとんどでした。つまり、汚染された範囲全ての土壌をバックホウで掘削し除去してしまうという手法です。
最も確実な対策ですが、無駄に廃棄しなければならない土壌も多くなってしまうという非常に大きな欠点が問題視されていました。
そこで、化学反応を利用した重金属類の選別方法による土壌改良方法が開発されました。主に掘削除去された土壌のリサイクル目的で行われていました。しかし、研究開発が進み、原位置での改良ができるようにもなりました。
まだまだ第2種特定有害物質の一部だけが対象ですが、いずれ全種類への応用も期待されています。
なるほどね!
土壌改良に盛り土をするメリット・ディメリットを教えてください
土壌汚染が確認された土地に盛り土を行うことは、土壌汚染対策法で規定された手法です。とは言っても、ただ盛り土をするだけでは、「臭いものに蓋をする」だけにとどまり、土壌汚染という概念がなかった時代に行われた汚染物廃棄方法となんら変わりありません。
盛り土の実施には土壌分析による濃度や汚染状況、範囲でその条件が定められています。
とはいえ、盛り土という手法自体が様々な問題点を抱えており、現在に至るまでなぜ盛り土という手法が採用されているのか。また、盛り土を行うことのメリットおよびデメリットについてお話いたします。
盛り土のメリット
土壌汚染対策法の目的は「人への健康被害を防ぐこと」であり、人が汚染された土壌を直接摂取しない対策を行うことが非常に重要です。
だったら、汚染された土壌が飛散しないようにすればいい!そのためには盛り土は最も簡単で最も効果的です。汚染土壌に蓋をするがごとく汚染のない土壌をかぶせればいいのですから。
つまり、これが盛り土の最大のメリットということになります。
盛り土のデメリット
いくら盛り土を行う上で条件が設定されているとはいえ、やはり盛り土自体に問題はあります。
まず、盛り土のための土壌は分析済みのものでなくてはならないということです。当たり前かもしれませんが、汚染されていないことが確認された土壌でなくては、盛り土自体が成り立ちません。
そして、盛り土をすることで、汚染土壌を隠蔽することができるということです。一旦盛り土をしてしまうと、そこは土壌汚染がない土地と見なされてしまいます。
ところが、土壌汚染対策法の手法は地層に沿った汚染の拡散を無視しているので、どれだけ土壌浄化対策を行なった上で盛り土をしても、盛り土下にはまだ他から拡散されてきた汚染物質が存在する可能性があるのです。
そうなると、もはや盛り土の問題ではなく土壌汚染対策法自体が問題といえますが、盛り土がその問題の一端を担っていると言えるでしょう。
このことは豊洲の土壌汚染問題でも明らかです。
法律も見直す必要がありそうね!
盛り土をした事例
様々な問題を抱える盛り土ですが、法で定められた手法であるため日本各地で実施されています。以下、その事例をご紹介します。
事例1 小学校のグラウンドでの土壌改良および盛り土
兵庫県山あいの小学校で、グラウンドが新たに設置する計画が立てられた。もともとは池だった土地を埋め立てて平地にし、そこを整備してグラウンドにしようというものである。
ところが、埋め立て後の土地の土壌汚染調査で鉛とヒ素の基準値超過が確認された。そこで、土壌汚染が確認された深度までの土壌掘削、除去が行われた。掘削除去後の土地に水はけがよくなるように土壌改良材を敷き詰め、その上に業者から購入した山土を埋め戻した。さらに転圧して、グラウンドを完成させた。
事例2 化学工場跡地での浄化及び盛り土
神奈川県藤沢市某所で創業30年の化学工場が廃止、その後の土壌汚染調査で、テトラクロロエチレンによる土壌汚染を確認した。汚染は工場敷地内全域に渡っており、しかもその一部では地下水汚染も見つかった。対策工事は約8ヶ月にも及んだ。しかし、幸いにもテトラクロロエチレン以外の汚染は確認されなかったため、浄化は全て原位置で行われ、汚染土壌を場外に持ち出す必要はなかった。敷地内に大型のテントを設置し、そこに重機を入れて石灰による土壌改良が行われた。改良後の土壌は元の場所に埋め戻された。敷地全域での浄化完了後、藤沢市担当者の指導のもと敷地の一部で盛り土がされた。
上記2事例はいずれも市担当者との綿密な打ち合わせ、指導のもと行われたものであり、その後当該土地で土壌汚染が再確認されたという話は聞かない。しかし、土壌汚染調査で地層から汚染の拡散ルートや明確な汚染源を確認したわけではないため、地中深くで汚染が拡散されている可能性も否定できないのである。
まとめ
土壌汚染対策法の目的を達成させるためには盛り土という手法は有効です。盛り土をすることで、表層土壌から人への汚染の直接摂取が防ぐことができる。もちろん、土壌改良も含めた盛り土が有効な場合もあります。
しかし、盛り土はあくまでも「仕上げ」として有効利用すべきであって、臭いものに蓋をするような形で利用するべきではありません。
いや、何よりも土壌汚染対策法自体を大幅に見直し、地質学の要素を取り入れなくてはならないでしょう。仮に地質学に基づいた化学的な土壌汚染調査、対策工事が実現すれば、盛り土の必要すらなくなるはずです。