ひと昔前までは儲かる土地活用な代表とすら言われていたガソリンスタンド。交通量が多い道路沿いには必ずガソリンスタンドがあり、各社の値引き競争が非常に活発でした。
値段よりもサービスを向上させて顧客を呼び込もうと、店員の接客教育を徹底して行うガソリンスタンドもありました。車の誘導の手際や、車についての深い知識が求められる非常に重要な仕事でした。
今ではそんなガソリンスタンドも次々と姿を消し、セルフサービススタイルが主流になり、ガソリンスタンドの数自体も徐々に減りつつあります。
低燃費車や電気自動車の台頭、若者の車離れがその一因と言われていますが、これもやはり時代の流れなのでしょう。
しかし、姿を消したガソリンスタンド跡地には、時代の流れの一言では済まない問題があるのです。それが土壌汚染問題です。
今回はそんなガソリンスタンドの跡地利用やその問題についてお話いたします
セルフは嫌よね!
ガソリンスタンドの跡地は安全なのか?
ガソリンスタンド跡地の有害物質
ガソリンスタンドの跡地は、非常に高い確率で汚染されていると考えるべきでしょう。商品であるガソリン自体が、汚染原因となり得るためです。
ガソリンを原因とする汚染は主に第一種特定有害物質であるベンゼンによるもの、そして第二種特定有害物質である鉛によるもの、そして鉱物油によるものです。
ベンゼンはもともとガソリンに含まれている物質ですが、車のエンジンの燃焼性能を向上させるためにあえて少量添加されていた時期もありました。今ではベンゼンの代替品が添加されていますが、それでもガソリン中のベンゼンを完全に除くことは不可能です。従って、ガソリンを扱う以上ベンゼンによる汚染の可能性は否定できません。
かつてガソリンには鉛が添加されていたことがありました。今でこそ「無鉛ガソリン」が当たり前ですが、車のエンジンのアンチノック性を向上させるための添加剤として鉛が非常に有効だったためです。鉛の代替品が開発されて以降、ガソリンに鉛を添加することはなくなりましたが、それでもガソリンを使用する以上、鉛汚染は疑わなくてはなりません。
今も昔もガソリンスタンドはガソリンの販売するためだけの事業所ではありません。タイヤのパンク修理やタイヤ交換、エンジンオイル交換、洗車のような車のメンテナンス業務も行われています。
特に、エンジンオイル交換では比較的大量の鉱物油を取り扱うため、鉱物油による土壌汚染は否定できません。
なお、油汚染は土壌汚染対策法の適用外ですが、土壌中の油汚染も近年重要視されています。
ガソリンスタンド跡地は安全か否か
以上を踏まえると、ガソリンスタンド跡地が安全とは言えないということになります。
もちろん、土壌汚染調査実施の結果で汚染なしと判断されれば、法的に安全ということができますが、少なくとも、ガソリンスタンド跡地である以上土壌汚染調査は必ず実施すべきでしょう。
売却するためにはどうしたらよいのか?
ガソリンスタンド跡地を売却する際の2つの状況について、それぞれお話いたします。土壌汚染が確認されない場合と土壌汚染が確認された場合です。
土壌汚染が確認されない場合
ガソリンスタンド跡地の売却は、基本的には容易です。ガソリンスタンドは交通量が多い道路沿いに設置されることがほとんどなので、その跡地も土地の価値としては非常に高く、買い手は容易に見つかるはずです。
しかし、マンションやアパート、一般住宅向けではありません。大型店舗や商店、企業が入るオフィスビルなどの用地として使用されるでしょう。
また、新たなガソリンスタンドが設置される場合もあり、コンビニやコインランドリーが敷地内に併設されたガソリンスタンドも時々見られます。
土壌汚染が確認された場合
ガソリンスタンド跡地で土壌汚染が確認された場合、跡地の売却は極めて困難になると言わざるを得ないでしょう。
土壌汚染調査費用は当然かかるものとして、土壌浄化対策工事では、数百万円〜数千万円、場合によっては数億円もの費用がかかる場合があります。
土壌浄化対策工事費用が土地本来の価格を上回ることも考えられるため、土地所有者は売却できずにやむを得ず所有し続けなくてはならないという事態に陥ってしまいます。
よほど収益が見込めると判断されれば、土壌浄化費用込みで企業が購入する場合もありますが、極めて稀なケースです。
国から土壌浄化費用の補助金が出る場合もあるので、行政と相談すべきでしょう。
そんなにかかるの!?
土壌汚染対策にかかる費用は?
土壌汚染対策全体にかかる費用は、その土地の状況次第で大きく異なります。土壌汚染状況を3つのパターンに分けてそれぞれに応じた大まかな金額を算出してみましょう。
土壌汚染が確認されなかった
売買対象がガソリンスタンド跡地だった場合、まず土壌汚染調査を実施する必要が生じます。この時フェーズ1、つまり土地履歴調査からの実施が一般的です。
そして土地履歴調査の結果、第一種特定有害物質と第二種特定有害物質、油汚染についての汚染の恐れがあると判断されることは間違いありません。
土壌汚染調査の結果、汚染が確認されなかった場合それ以上の調査の義務はなく、無事汚染なしとの判断が下されることになります。この時にかかる概算費用は以下の通りです。
*900m3以内の土地を想定
土地履歴調査 : 約50万円
土壌汚染調査 : 約70万円
総額 : 約120万円
ガソリンスタンド跡地であることが判明しているにも関わらず土地履歴調査を実施するのは、当該土地がガソリンスタンドとして使用される前の状況を調査するためです。
深度0.5〜1.0m付近で土壌汚染が見つかった
先ほども言ったように、土壌汚染が確認された場合、その土地の売買にも大きく影響されます。浄化にも多額の費用が発生しますが、汚染が深度0.5〜1.0mあたりで収まっているならば、まだ影響は小さいと言えるでしょう。この場合に発生する概算費用は以下の通りです。
*900m3以内の土地にて、100m3以内の場所で汚染が発覚した場合。
土地履歴調査 : 約50万円
土壌汚染調査 : 約70万円
土壌浄化費用 : 約500万円〜1000万円
総額 : 約600万円〜1120万円
深度7.0〜10.0m付近の広範囲で土壌汚染が見つかった
考えらえる限り、最も多額の費用が発生する最悪の状況です。この状況になると、土地の売買への影響は極めて大きく、土地の売買は諦めざるを得ないかもしれません。土壌浄化費用
がもともとの土地価格を上回ってしまうためです。この場合に発生する概算費用は以下の通りです。
*900m3以内の土地を想定
土地履歴調査 : 約50万円
土壌汚染調査 : 約70万円
土壌浄化費用 : 約1500万円〜約2億円
総額 : 約1600万円〜約2億120万円
よほどの好条件でない限り、土地の売却は困難を極めるでしょう。
売れないかも!
跡地はどのように利用されていますか?
ガソリンスタンドという事業所であるため、交通量の多い幹線道路沿いであることがほとんどです。従って、マンションやアパート、一般住宅のような人が住む建物の用地として利用されることはないと言っていいでしょう。
新たなガソリンスタンドとして利用されることもありますが、コンビニやスーパーマーケットのような商店、工場や研究所、遊戯施設などのような事業所として利用されることがほとんどです。
最近では、外国人観光客向けにビジネスホテルに利用されることもあります。
ガソリンスタンドの跡地を利用するメリットは?
土壌汚染の可能性が高く、非常に扱いに困るイメージのガソリンスタンド跡地ですが、場所次第、利用方法次第では非常に有効です。
どういうことか?
ガソリンスタンドがどういう立地の場所に存在するか、ということです。つまり交通量が多く車が入りやすい場所ということになり、その利点はガソリンスタンドだけでなく他の商店にも極めて有効です。
つまり、新たな商店を建設する場合、ガソリンスタンド跡地はマーケティング上非常に顧客を呼びやすい好条件の立地ということになるのです。
実際の跡地利用としては
・コンビニエンスストア
・ファーストフード店
・運送業などの中継基地 等
先ほど、土壌汚染が確認されたガソリンスタンド跡地の売却は極めて困難というお話をしました。もちろん、そのことに間違いはありませんが、宅地としてではなく、健康被害がない状態を確保できる応急的処理を施し、利益を生み出すことが見込めると判断されたならば、その土地を売却できる可能性は高いでしょう。もちろん、行政としっかり話し合う必要はありますが。
まとめ
ひと昔前までは儲かる土地活用な代表とすら言われていたガソリンスタンド。交通量が多い道路沿いには必ずガソリンスタンドが数店舗あり、各社の値引き競争が非常に活発でした。
しかし、そんなガソリンスタンドも時代の流れとともに次々と閉店に追い込まれ、交通量の多い幹線道路沿いにもガソリンスタンドはまばらになってきました。
存続を勝ち取ることができたガソリンスタンドは、もはや価格競争する相手もおらず、セルフが主流になったためサービスも意味を成しません。
もちろん、ガソリンスタンドが完全になくなることはないとは思いますが、車社会を支えたガソリンスタンドの役割は概ね終焉を迎えたと言ってもいいでしょう。
ただ、土壌汚染問題はどれだけ時代が移ろうとも解決すべき重要問題として残ることになります。まさに負の遺産です。
もちろん、土壌汚染問題はお金の問題などではなく、日本に残された美しい土壌と地下水という貴重な水源を守るために非常に重要な問題です。
今日の日本経済を陰で支えてくれたガソリンスタンド。これからを生きる私たちの役目は、その負の遺産といかにして上手く付き合っていくかということなのかもしれません。