平成15年に施行された土壌汚染対策法。基本的に日本の国土を特定有害物質から保護し、人への健康被害を防止する目的で制定された法律です。
日本の国土とは日本の土壌のことですが、土壌だけではなく地下水に対する規定も含まれています。
しかし、地下水はやがて河川や海へと流れるもの。河川や海へと流れついた地下水は、土壌汚染対策法ではなく、水質汚濁防止法により規定されるものとなるのです。
つまり水質汚濁防止法は、土壌汚染対策法と非常に関わりの深い法律であり、土壌汚染対策法を理解する上で水質汚濁防止法は非常に重要になってきます。土壌汚染対策法の最も重要な点が、水質汚濁防止法からの準用規定であるためです。
そこで今回は、そんな水質汚濁防止法についてお話いたします。
水はきれいな方が良い!
平成29年度の水質汚染防止法について
平成29年度水質基準達成状況について
平成29年度の水質汚濁防止法違反による摘発件数とその事業場を以下に示します
排水基準違反・・・・・・・・・・・・・1事業場(生コンクリート製造業)
都道府県の調査による違反摘発件数・・・0件
海上保安庁の調査による違反摘発件数・・1件(水素イオン濃度の基準不適合)
ここで改めていうまでもなく、水は私たちの生活に欠かせないものであり、水質汚濁は直接私たちの生活に大きな影響を及ぼします。
そのため土壌汚染対策法制定から遡ること33年前の昭和45年に、水質汚濁防止法が制定されました。その後、法に基づいて河川水や湖沼、海水の水質は厳しく管理されたのです。
水質汚濁による私たちの生活への影響は甚大であるため、法の適用を受ける各事業所は自社の排水の水質管理を義務付けられ、悪質な違反者には刑事罰が適用されました。
そんな経緯を経て平成29年度、100%に限りなく近いほどの水質基準達成率を実現するに至ったのです!
法律のお蔭か!
そもそも水質汚濁防止法とはこんな法律
では、水質汚濁防止法とはどんな法律なのか。詳しくお話いたしましょう。
水質汚濁防止法は昭和45年に施行された法律であり、有害物質を排出恐れのある「特定施設」を設置している「特定事業場」からの公共用水域への排出および地下水への浸透を規制してします。
これが最も基本的な考え方ですが、「特定施設」「特定事業場」「公共用水域」というあまり聞きなれない言葉が出てきました。それぞれ説明していきましょう。
特定施設とは、水質汚濁防止法第3条で規定される「特定施設」のことであり、有害物質を排出する恐れのある施設が100以上規定されています。これらを設置している事業場を「特定事業場」と言います。
また「公共用水域」とは、河川や湖沼、港湾、沿岸海域などの公共利用のための水域や水路のことを言います。ただし、下水道は下水道法という別の法律が適用されるため、公共用水域には該当しません。
水質汚濁防止法の規制項目は大きく4つに分類されます。以下に説明いたします。
・健康項目・・・・・・・人の健康にかかる被害を生ずるおそれのある物質
・生活環境項目・・・・・水の汚染状態を示す項目
・総量規制・・・・・・・指定地域(東京湾・伊勢湾・瀬戸内海)特定施設からの排水
・地下浸透水の規制・・・健康項目にかかる有害物質の地下への浸透の禁止
これら4つを大きな柱として規定した法が水質汚濁防止法であり、違反した場合は刑事罰が科せられる可能性があります。
法律は守らなきゃ!
水質汚濁事故とはどのようなものですか?
先ほども言ったように、近年公共用水域の水質は極めて良好であり、基本的に水質に異常が発生することはありません。
水質汚濁が発生する最も大きな原因として考えられるのは、公共用水域に排水を流している事業場での事故です。
通常だと、事業場内の排水処理施設で排水を処理し排水基準に適合した状態で公共用水域に流されるか、あるいは下水道へと流されて公共の排水処理施設で処理されます。
つまり、汚染された水がそのまま公共用水域に流されることはありません。
ところが事業場に設置させた設備(主に特定施設)の操作ミスや故障などで、トラブルが発生した場合、排水がそのまま公共用水域へと流されるという事態が発生する可能性があります。
事業場内で公共用水域への有害物質の漏洩がすぐに判明した場合、すぐに自治体に連絡し、早急にしかるべき処置を行わなくてはなりません。
有害物質の漏洩を隠蔽、もしくは処置を怠った場合、事業所の責任者が刑事罰を受ける可能性があります。
仮に事業所が有害物質の漏洩を隠蔽した場合、有害物質の拡散が広がり公共用水域での数々の異変が見受けられるようになります。わかりやすい例で言いますと、魚の死体が浮かび上がってくるような状態です。
自治体による定期的な水質検査で水質の異変が判明しますが、周辺住民による通報で判明することもあります。
公共用水域の水質のより詳細な検査結果から有害物質を漏洩させた事業場を特定することは容易であり、どう取り繕ってもごまかすことはできません。そしてその刑事罰は決して軽くはありません。
それよりも公共用水域に流された有害物質を処理する労力が非常に大きく、しかも時間を要します。
だからこそ事故発生の場合の早急な対応は事業場としての絶対的な義務であり、それを怠った場合の刑事罰が規定されているのです。
厳しい管理が必要です
水質汚濁が起きる原因はどのようなものですか?
水質汚濁防止法の適用範囲は、「特定施設を設置している事業場からの排水」です。特定施設の設置が法適用の大前提となります。
先ほども少し触れましたが、水質汚濁防止法の適用となる水質汚濁が起きる原因は、特定事業場内に設置された特定施設の誤操作、故障が考えられるでしょう。
また、試薬を投入するタイプの特定施設の場合、試薬の投入量の間違いにより事業場内の排水処理設備の排水能力を大幅に超えて、処理されないまま公共用水域に排出されてしまったという状況も考えられます。
排水設備の管理が大切
平成以降、近畿圏で起こった主な水質汚濁について教えてください。
日本で最初の公害事件と言われる足尾鉱毒事件。銅山の開発により、鉱毒水が栃木県と群馬県にまたがる渡良瀬川に流れたことにより多くの被害を出した事件であり、水質汚濁の有名な事例です。
また、かの有名な水俣病も水質汚濁の事例です。熊本県水俣市の化学工場から流れた有機水銀を含む工場排水が河川に流されて、その河川に生息する魚を食べることなどによって「メチル水銀中毒症」を発症する患者が続出しました。
上記2事例は、いずれも平成以前の事件であり、まだ環境保護という考え方が浸透していない時代のものであるため被害は甚大なものとなりました。
では、平成以降の水質汚濁の事例とは一体どんなものか。以下に紹介いたします。
事例1 某鉄鋼メーカーにて発生
自社製鉄所防波堤から、水質汚濁防止法に基づく水素イオン濃度の排出基準に適合しない恐れのある水が流出していたことが判明。しかし、以降5年以上にわたり、自社測定データについて、基準値を超えるデータを基準値内に書き換えて地方自治体に報告していた。
事例2 某金属メーカーにて発生
地方自治体の要請に基づき、自社の事業を行なう際に排出される排水について自主点検を実施。水質汚濁防止法で規定される排水基準を超過しているにも関わらず、データを基準値内に書き換えて地方自治体に報告していた。
事例3 某建材メーカーにて発生
地方自治体の要請に基づき、自社の事業を行なう際に排出される排水の自主点検を実施。ところが、管理不足により要請された通りの測定回数が実施されなかった。地方自治体には要請通りの測定回数が実施されたと報告していたので、報告内容が改ざんされたものであったことが判明した。
以上、3事例をご紹介いたしました。この中で周辺住民への直接的な健康被害に直結するような事例は見当たりません。しかし、ある意味それ以上に悪質なモラル違反が見受けられました。
データの書き換えのような、あってはならないようなことが平然と行われている現実、どれだけ水質汚濁防止法が優れた法律であろうとも、適切に実施されなくては何の意味もありません。
まとめ
土壌汚染対策法と最も関わりの深い法律である水質汚濁防止法。
実際に土壌汚染対策法で規定される「特定施設」は水質汚濁防止法の条文を準用しています。つまり冒頭でもお話したように、土壌汚染対策法で規定される特定施設を調べるならば水質汚濁防止法の条文を確認する必要があり、地歴調査を行う中で、特定施設の確認は極めて重要な意味を持つことになります。
ただ水質汚濁防止法は、土壌汚染対策法と比較すると30年以上古い歴史を持つ法律であり、そのため何度も改正を繰り返して今の形となりました。
前述したように、特定施設を持つ特定事業場からの排水は、法に基づいて適切に処理され公共用水域へと流されています。
100%近い基準達成率がその成果を物語っていると言っていいでしょう。
しかし、どれだけ優れた法を制定してもそれを実施するのは人であり、人のモラルをいかに保つかが基準達成率100%への最後の砦なのかもしれません。
そう考えるとちょっと恐ろしい・・・なぜなら今の100%近い達成率がもしかしたらデータの書き換えによるものである可能性だってあるのですから。
まさかそんなことはない!と信じて。